「今井さん・・・。」
「我孫子殿・・・。」



二人は顔を見合わせ、ゴクリと唾液を飲み込んだ。





―パン教室―




テーブルの上に置かれたパンを見つめ
今井玲子と我孫子優の二人は恐る恐る同時に手を差し出し、
そのパンを一つずつ手に取る。



「い・・・いいですか?我孫子殿。」
「うん・・・今井さんこそ、心の準備はいい?」
「私はいつでも構いません。」
「じゃあ・・・せーの、で食べよう。」



「せーのっ」




我孫子優・・・ビコの合図で、同時にパンを口に運ぶ。



「ぐふぅっ・・・」
「ぺっぺ・・・今井さん・・・これ・・・何入れたんですかぁ〜。」



涙目になりながらビコは今井を仰ぐ。




「いっ・・・いえっ。私は本に書いてある通りに・・・。」



当の今井も、顔を歪め先程口に入れたパンを吐き出していた。
噛んだ後もなく、口に入ったままの状態で吐き出されている。




「はぁ・・・何度やっても上手くいかずにこれなんですよ・・・。」
「うん・・・でも、これは酷すぎるなぁ。硬くて石みたいだよ・・・。」



見た目は、スコーンのようなパン。
が、しかし。
ひとくち口の中に入れようものなら、
咀嚼する事が全く出来ず、味も何故だか苦い。
一体、何をしたらここまでになるのか。




ある意味、これも才能だ、とビコは密かに思った。
このパンを二つに割る時だって、
パキン、と音がしたのを覚えている。
パンのつもりで作っているのならば、
間違ってもこんな音にはならないハズだ。
まるで、硬めに焼き上げたクッキーを割っているかのような感触だった。



チラッと今井を横目で見る。
さすがにビコの一言がショックだったのか、
ガックリと肩を落とし、イスにもたれかかって項垂れている。
そんな今井の様子を心配したのか、
ビコの弟子たちが今井の周りを取り囲んで、
何とか元気になってもらおう、と労いの言葉を掛けている。



好物の牛乳に一番合う食べ物、と思い、
パン作りを始めた、という今井。
裁判官という役職についている程の人物が
ビコを頼ってくる、という事は、
きっと魔具の事だろう、と踏んでいたビコは、
まさか今井にパンを作るのが上手くいかない、と
泣きつかれるなんで、ほんの1時間前までは予想もしていなかった。



が、実際に今井の作ったパンを口にしてみると、
あれほどの人にも、得手不得手、苦手、出来ない事があるんだ、と
ビコは再認識した。




「―分かりました、今井さん。ボクが教えます、パン作り。」
「ほっ・・・本当ですか?!我孫子殿!」



ビコの一言で、今井の表情がパッと明るくなる。



『そんなに喜ぶ事かなぁ・・・。』



そんな風に思いながら、コクン、とビコは頚を縦に振る。







―――数ヵ月後




「あれっ?今井さん、ビコさん、何やってるんですか?」



用事があってたまたまビコの家へ訪れたロージーが、
キョトンとした顔でキッチンに並んで立つ(ビコは少し低い脚立を使用している)
二人を交互に見て、驚きの声を上げた。



「何って・・・ボク、今井さんのパンの先生なの。」
「へぇ!今井さんの?パンには紅茶が合うんですよね〜。」
「パンには牛乳だ、草野。」



少し、ムッとした表情で今井がロージーに返す。



「えぇ〜?!今井さんも紅茶飲んでみたら分かりますよぉ!」
「いいや、私は牛乳しか認めん。」
「紅茶も合いますってばっ!」




「よし、出来た。」



今井とロージーが言い合っている間に、
パンは焼き上がり
ビコは1人でコーヒーを片手に、
そのパンの焼きあがり具合を確かめ、
1人幸せに満ちた表情を見せるのだった。






「やっぱりパンにはコーヒーだよ。」





*****あとがきという名の言い訳*****

後半のシーンが出てたな、って思って、
そこまでに至るまでの事を
妄想して書いてみよう、って思ったら、
こんなものが出来上がってみちゃいました(日本語おかしい)


ちなみに私はパンには紅茶派です(誰も聞いてないって?笑)


















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